※まだ仮アップです。後ほどいろいろ書き直すかも。作者。

前回までのあらすじ
榮倉奈々は門前薬局に薬を借りにいく時、そこの薬局長である妻夫木聡と一緒に勉強会行く約束を取り付ける。
その時、板屋由夏は齋藤工と別れの時が近づいていた。

神奈川県薬剤師会DM勉強会にて
「榮倉さん、やっぱり新薬の話題多かったね」
「特にSGLT-2阻害剤ですよね」
「そうだね。副作用が気になる所だよね。」
「はい、それさえ無ければⅠ型への応用も期待できるし、悪い薬じゃないと思うんですけど・・・。」
「ところで、この後、懇親会は行く?」
「妻夫木さんはどうしますか?」
「あれって、偉い先生ばっかりでしょ?なんか居づらいんだよね。」
「わかります。なんか居場所ないですよね。」
「だよね。でもお腹空かない?」
「すきました〜」
「この近くにパンケーキの美味しい所があるんだけど、よかったら行かない?」
「いきます!」
妻夫木さんから、勉強会も誘われて、その上食事まで誘って頂けるとは。
願っても無いお誘いは断る理由もなく、私達はパンケーキ屋へ向かった。
「素敵なお店ですね。お店の周りに菜の花が咲いてる」
「このお店はもともと菜の花からつくる蜂蜜屋さんだったんだけど、パンケーキにかけたらすごく美味しいって話題になって、それでパンケーキ屋さんも始めたんだって。もちろん、大ヒット。最高に美味しいから、楽しみにしてて。でも、ちょっと並ぶけど良いかな?」
「もちろんです。」
行列をみると前に20人程度。
30分くらいは待ちそうだ。
でも、妻夫木さんと一緒に並ぶ行列なら全然苦じゃない。むしろ、一緒にいる時間が増えるし、大歓迎だ。
「ところで、榮倉さんは何で薬剤師になったの?」
「私は・・・。話すと長いですよ?」
「いいよ、教えてほしいな。」
「じゃあ、話します。薬剤師を目指した理由っていろいろあって1つじゃないんです。私小さい頃おてんばだったんですけど、喘息もあって、発作を起こしては薬を飲んで、それでも走り回っては大発作を起こして入院したりしてたんです。おとなしくしていれば、入院する事もなかったんですけどね。苦しくても遊んでると楽しくって夜とか朝方に親に病院連れてってもらってました。今考えるとすごく迷惑な患者ですよね。」
「へぇ、意外に体弱かったんだね。」
「そうなんです。でも、中学生になって、引越しして家がフローリングになったら、全然発作起こらなくなって。アレルギー源が減ったのと、体の成長で良くなったんだと思います。薬剤師になったきっかけの一つは、喘息なんです。喘息でいくら苦しくても吸入したり、点滴すると嘘のように治っちゃって。薬って凄いなぁって思ったんです。それで薬に興味が湧いたのと、入院中に読んだ野口英世とか、ナイチンゲールの伝記が印象的で、将来私も医療系に進みたいなぁって思ったんです。それからは医療系の本をよく読んでました。パラサイトイブとか、病院で死ぬという事とか。」
「あっ、その本俺も読んだよ。面白いよね!パラサイトイブ。凄い怖いんだけど。」
「そうなんですよ。怖くても面白いから、読んじゃうんですよね。あとは…」

「いや、蜂が!痛いっ」
「大丈夫?」
「痛い〜、刺されちゃったみたい」
「大丈夫だよ。針を取っておけば。ただのミツバチだし。」
「ほんと?腫れてきたけど、大丈夫かな?」
「ただの蜂だろ?死にやしないよ。ほら、それより次俺たちの番だぜ。早く入ろうぜ。腹減ったよ。」

「前のお客さん蜂に刺されたみたいね」
「かわいそう。蜜蜂も刺すことがあるんですね」
「彼女黒い服だから狙われたのかな…。お店の周りの菜の花は綺麗だけど、やっぱり蜂もくるよね。あっ、席空いたみたい。入ろうか。」
先ほどのカップルから間もなく、店員さんに席に案内され、私達はおすすめの蜂蜜パンケーキをオーダーした。
「妻夫木さんはどうして薬剤師になったんですか?」
「俺?俺は家が薬局だからさ。」
「そうなんですね。でも、継がないんですか?」
「オヤジがまだまだ自分でやるって、店は渡さないって、きかなくてさ・・・。それにね、」
妻夫木さんの話の続きは気になったが、それ以上に気になっているのが、さっき行列で前に並んでいたカップル。彼女の様子がおかしい気がする。
「妻夫木さん、ごめんなさい。話の途中なんですけど、さっきの蜂にさされた女の子、様子が変じゃないですか?」
「え?そう?あっ、なんだか息苦しそうにしてる」
「私、ちょっと行ってきます。」
私は彼女の側まで早足で向かった。
「あの〜、失礼ですけれども、先ほどから具合が悪そうにみえて・・・。」
「な、なんか、彼女がさっきから変なんだよ。」
オロオロする彼氏を横目に、私は彼女の様子を観察した。
「妻夫木さん!救急車呼んで下さい!あと、あなたは念のためAEDもってきて!急いで!」
「えっ、AED!?」
「そう、AED。場所がわからなかったらお店の人に聞いて!それと、この中にドクターはいませんか?」
私は、妻夫木さんと彼氏に指示を出しつつ、バイタルを確認した。また、ドクターへの呼びかけに返事がなく、残念ながら医師はいない様子であった。
脈は触れるか触れないかくらいでとても弱い。
15秒で約30回だから、120回/分。
低血圧で頻脈だ。
呼吸数は15秒で7回だから、呼吸数28回/分。
頻呼吸のうえ、喘鳴、呼吸苦あり。胸を押さえている。
先ほど蜂にさされた所を確認すると腫脹がひどくなっており、全身にも赤みと湿疹が出てきている。
「ねぇ、蜂にさされたの初めて?」
「はじめてです。」
彼女の声は喘鳴と呼吸苦でいまにも消えそうだ。
「榮倉さん、救急車呼んだよ!」
「妻夫木さん、ありがとうございます。」
「AEDありました!」
「彼もありがとう」
今のところ、急激なバイタルの変化はない。
AEDも手元にあれば万が一にも対応できる。
「榮倉さん、これってもしかして」
「たぶん蜂にさされてアナフィラキシーショックを起こしたんだと思います。彼女はアナフィラキシー初めてみたいだから、エピペンも持っていません。救急車を待ちましょう。」
その3分後、救急車が到着しバイタルと経過を救命士に伝えた後、彼女は搬送されていった。

「救急車も行ったし、私の仕事もここまでね。」
「榮倉さん凄いね。関心したよ。」
「全然!私なんて。」
「かっこ良かったよ。指示は的確だし、落ち着いてたし。」
「ぜんぜん!私、こういうの初めてだから、超緊張しました。落ち着いてなんてなかったです。AEDも知らない機種だったし、万が一の時、使える自信なかったんですよ。」
「でも、ちゃんと救急車呼んだり、AED持ってこさせたり対応できてたじゃない。凄いよ。」
「実は私、BLSの講習を何回か受けた事があって。だから一通りの事は一応できたんです。でも、現場はこれが初めてだったから。あ〜、緊張した〜。」
「だから、対応できたんだ。俺なんてなにもできなかったよ。」
「でも、私の先輩なんて、もっと凄いですよ。この前、当直中にコードブルーがあったんですけど、人が足りなかったので、普通に心マしてました。」
「薬剤師も心マするんだね。」
「私も初めて見た時そう思いました。でも、先輩にそういったら『あんた、薬剤師だって医療者なんだから、これぐらいできて当たり前よ!』って怒られちゃいました。」
「あはは。凄いね、その先輩。俺もBLS勉強しないとな〜」
「板屋先輩はほんっと尊敬してます。」
あっ、そういえば板屋先輩はいま空港なんだっけ。
今頃どうしてるんだろう・・・。

成田空港
「板屋さん、わざわざ見送りにきてくれてありがとうございます。」
「いいのよ。あんた、向こういっても元気でやるのよ。」
「あっ、向こういったら手紙書きますね。」
「ありがとう。手紙まってる。あっ、そういえばガンナオルマブがこの前採用されて、3例使用されたけど、今の所副作用なく順調に効果を出しているわ。」
「そうですか、良かった。」
「遺伝子検査で厳密に患者を選んでるからね。うちは特に厳しく。」
「あの薬は素晴らしい薬だと思います。患者を選べばですけど。」
「言っておくけど、うちの病院はあなたのせいであの薬を使わなくなったんじゃなくて、遺伝子検査が確立されるのを待っていただけなのよ。薬は正しい患者に正しく使ってこそ、」
「医薬品なんですよね?」
「そう。正しく使わなければ毒でしかないから。それを確認するのが薬剤師の役割ってこと。私は現場でそれをするから、あなたは研究がんばりなさいよ。」
「最初は基礎研究ですけど、10年以内に必ず臨床に応用してみせます。」
「うん、わかった。信じて待ってるから。」
「僕の研究で薬になる日を待っていて下さい」
彼は私の目をみて、力強く言い放った。
私が待っているのは「あなたと再開する日」である事を含めたつもりであったが、彼には届かなかった。
夢を見ている男なんてそんなもの。
夢しか見ていない。
でも、それでいい。それでいいんだ。
「もう飛行機の時間じゃない?」
「そうですね、そろそろ行きます。」
「いってらっしゃい。」
「いってきます。あっ、最後にこれ。」
「え?何これ。」
渡されたのは、2人で撮った写真だ。
薬局の忘年会でたまたま隣同士で座った時に写真とったっけ。もう何年も前になるのに。
こんな写真があるのも驚きだけど、それを持っていたのもさらに驚きだ。
「写真です。自分の事忘れないでくださいね。」
「あなたの事なんて、忘れたくても忘れられないわよ。」
「じゃ、ほんとにこれで、行ってきます」
「うん。体に気をつけてね。」
「板屋さんも。あっ、写真の裏に手紙を書いておいたので、後で読んで下さいね。」
そういうと齋藤工は大きく手を振って搭乗口に向かっていった。
私は彼の姿が見えなくなるまで見つめていた。
もう会う事もない。
そう考えると涙がこみ上げてくる。
あっ、そうだ。写真の裏に手紙を書いてあるって。
写真の裏を見返すと、感謝の言葉が一言「ありがとうございました!」と大きく書かれた後に、こう書いてあった。

「志を得ざれば再びこの地は踏まじ」

野口英世が日本を旅立つ時の言葉だ。
でも、彼なら野口英世のように頑張ってくれそう。
絶対成し遂げて帰ってくる。私はそう信じている。

次回予告
第4話 薬剤師も当直するの?榮倉と板屋と濱田の一番長い日
それはお正月の休日出勤の事。
病院で働いていると、院内患者や救急にかかる患者さんのために薬剤師も仕事をしなければならない。
その日、榮倉奈々と板屋由夏と濱田岳は3人で業務を回していた。
山のように押し寄せるインフルエンザの患者、コードブルー、モンスターペイシェント・・・。
3人の一番長い日が始まるのであった。
次回もお楽しみに!