薬剤師が主役のドラマがなかったので、作ってみました。
登場人物の名前はとりあえず、仮名です。
ストーリーをお楽しみ下さい♪

スライド1

私、榮倉奈々。病院で働く薬剤師、5年目。今仕事に燃えてます。
でも、今日は高校時代の親友、本仮屋ユイカと女子会なのです。
「今日は5時で終わらせて帰ります!」
と、同僚に宣言した。
病院薬剤師は忙しい。
普段は最低でも19時、普通が20時、ルーチン業務以外の自分の仕事をすると、21時過ぎても帰れないことも多い。
しかし、今日は月に1回のユイカとの女子会。
遅れる訳にはいかないのだ。
とは言っても、仕事は多い。仕事は残ってしまった。
残った仕事は土曜日に出勤してこなす事にして、ユイカの待つみなとみらいのレストランへ急いだ。
女子会といっても、いつも2人だけの会。
毎月開催しているが、毎回最高に盛り上がるのだ。
いつもの話題は、お局の悪口、先輩のモノマネ、新人のゆとり具合などなど、だいたいが職場の愚痴だ。
でも、今回はちょっと違った。
「うちの課長なんだけど、なんか最近かっこいいなって・・・。」
ユイカは薬剤師のための就職、転職情報サイトの運営・営業として働いている。
その課長は3ヶ月前に、別部門からユイカの働いている薬剤師向けの部門へ異動となりユイカの上司となった。
話を詳しく聞いてみると、取引先とのやり取りでミスをしてしまったユイカのために、一緒に取引先まで謝りに行った事がきっかけのようだ。
それ以来、課長を男性として意識するようになったそうだ。
「でも、課長結婚してて・・・。子供はいないみたいなんだけど」
「え〜!?既婚者?」
「うん。でも、ほら、付き合いたいとかそう思ってるわけじゃないよ。ただ、かっこいいなぁって思ってるだけ。」
「そうだよね。あはは。本気じゃないよね?」
「やだなぁ、本気じゃないよ〜。ところで、奈々は何も無いの?」
「え?私?わたしは・・・。」
何も無かった。
K大学の薬学部を卒業して5年。
昔から夢だった薬剤師になってから、がむしゃらに仕事をしてきた。
恋をするより、薬剤師として働く事が楽しかった。
でも、その仕事も慣れてきて、そろそろ恋に落ちてもいいかなぁと、その時思った。
「ところでユイカ、薬剤師だったら惚れ薬って作れるの?」
「え〜!作れるわけ無いじゃん!でも、作って誰に飲ませようとしてるのよ。」
「ちょっとだけ、課長に・・・。」
「だめだめ!」
そんな話で盛り上がった。
親友のユイカが既婚者に恋をしている事もショックだったが、薬剤師が惚れ薬を作れる?と、聞かれた事もショックだった。
私は薬剤師という仕事に誇りを持っている。
冗談だとわかっていても、薬剤師の事は正しく知っていて欲しいのだ。
翌日、私はその事を私の尊敬する板谷由夏先輩、に話していた。
「惚れ薬?あるじゃない。例えば、この強心剤をこっそり盛れば、ドキドキするから、吊り橋効果的な?バイアグラをこっそり盛って、自分の事セクシーと勘違いさせるとか?」
「ちょっと先輩!何考えてるんですか!」
「冗談よ、冗談。そんなことするわけないじゃない。」
「でも、薬剤師って、それだけの認知度なんですかね?」
「私も合コンいくと、薬剤師って薬調合するの?ってよく聞かれる。今だに生薬集めて漢方つくってるイメージなのよね。」
「薬剤師って仕事の認知度低いですよね。でも、先輩も合コンいくんですね?」
「合コンくらいいくわよ!私だって!」
「ってことは、今、彼氏はいないんですか?」
「…。いないわよ。悪かったわね。」
こんなに美人で仕事ができて、優しい先輩に彼氏がいないのは絶対におかしい。結婚していたって不思議じゃないのに。

翌日
「おーい、濱田岳!TS-1いつ来るの?」
「え?TS-1?」
「お前、発注してないのか?ちゃんと、ケモ予定見てんのかよ。」
「スイマセン…。」
「薬がないんじゃ、退院させられねぇじゃん。あっ、榮倉今暇?」
「え?」
暇ではないのだが、通りすがりで話しかけられてしまった。
今暇?と声をかけられた時は、たいてい面倒な仕事だ。
「ちょっと、BJ薬局行って薬借りてきてよ。もう退院なのに欠品だって。まったく、あいつ何やってんだよ。TS-1を14錠よろしく!俺患者さんところ行かなきゃいけないから。頼むね。」
「えっ、あっ、ちょっと、松田さん!」
松田さんはそう言うと、足早に病棟へいってしまった。
あたりを見回しても手の空いているスタッフは誰もおらず、もう、自分が借りてくるしかなさそうだと気付き、しぶしぶ借りてくることにした。
病院の薬は在庫があるが、高価であまり処方されない薬もある。
うっかり発注を忘れてしまうと、薬は欠品してしまい、患者さんに渡せなくなる。
卸に急いで来てもらう事もあるが、時間がない時は近隣の薬局に借りに行った方が早い。
BJ薬局は病院から徒歩3分。
私が薬を借りに行くときは、いつもこの薬局と決めている。
理由は、ここの薬局長が、かっこいいからだ。
「こんにちは〜」
「あっ、榮倉さん!お疲れ様!」
「妻夫木さん、大変申し訳ないんですけど、TS−1を貸して欲しいんです。」
「いいよ、ちょっと待ってて。」
数分後。
「はい、お待たせしました。欠品しちゃったの?」
「そうなんですよ。いつもすいません。」
「どういたしまして。欠品したらいつでも借りにきてよ。」
「ほんっと、ありがとうございます。あっ、そういえば妻夫木さん、月末の勉強会行きますか?」
「糖尿病の新薬の勉強会?行くよ。あの薬よくわからないところあってさ。榮倉さんって、確か糖尿病療養指導士だったよね?」
「はい!」
「患者さんのアドヒアランスで悩んでて。その時でいいから、ちょっと意見きかせてよ。」
「はい、私でよければ。」
「ありがとう。」
憧れの妻夫木さんの力になれるかもしれない。
苦労して、糖尿病療養指導士を所得しておいてよかったとつくづく思った。
「あっ、いけない。この薬渡し次第退院だったんだっけ。私、もう行かないと。薬は午後納品されるんで、午後お返しに来ますね。」
「俺、午後は在宅にいくから、他のスタッフに伝えとくね。」
再度、妻夫木さんにお礼をいって、薬局を出た。
午後は妻夫木さんいないんだ。また会えると思ったのに残念・・・。
でも、糖尿病の勉強会来るなら、そこでいっぱいお話ができるかも。
なんか、俄然やる気出てきたぞ〜。
あれ⁉︎あのドラッグストアにいるのって、板谷先輩じゃないかな。
今日は当直明けで帰るって言ってたから、買い物かなぁ。
でも、男の店員さんと、話ししてる。なんだかいい雰囲気。
ひょっとして知り合い?もしかして、彼氏?今度聞いてみよう。むふふ。
でも、今は急がないと。
ドン!
「あっ、スイマセン。ごめんなさい。私よそ見してて。」
足元には薬袋が散乱していた。
「怪我は無い?」
そういって手を差しのべてくれたのは、40歳くらいの男性。
「ありがとうございます。」
私はそうお礼を言って足元に散らばった薬を二つ、三つと、急いで掻き集めてお渡しした。
「ごめんなさい、本当に。怪我はなかったですか?」
「僕は大丈夫だよ。君は?」
「大丈夫です。」
「そっか。それなら良かった。じゃ、気をつけて。」
「はい、すみませんでした。」
いけない。つい、先輩に気を取られてた。気をつけないと。

「TS−1借りてきました」
「榮倉さん、スイマセン。」
病院に戻ると濱田岳が待っていた。
濱田岳はどこか憎めないところがある。
ちょっと忘れっぽいところはあるけど、仕事は一生懸命取り組んでいる。
勉強会や学会は、誰よりも積極的に行っているし、朝はいつも一番に来て、夜は一番遅くに帰っている。
「濱田くん、欠品多いから気をつけてよ。」
「はい、スイマセン・・・。気をつけます。」
「あれ?でも昨日休みじゃなかった?」
「休みです。でも、今日朝発注してない事に自分が気づけば欠品しなかったんで。」
「もう。ちゃんと松田さんにその事言った?」
「言ってないです。」
「だめ、ちゃんと説明しないと。」
「はい・・・。」
人が良いのか、ほとんど言い返す事がない。
そのため、誤解される事も多いのだ。
しかし、嫌われないのは彼が一生懸命仕事をしているのをスタッフが見ているからなのだ。

翌日
今日は1日病棟の日だ。
薬剤師も病棟で仕事をする。
薬剤師は調剤室にいて、入院患者さんの薬を作るだけではないのだ。
まず、今日退院の患者さんをチェックして、今日の入院予定を確認。
あと、昨日の夜1人入院か…。
40代男性、家で立ち上がろうとした時に意識消失。
めまい、頭痛あり。起立性低血圧疑い。
救急外来に妻の車で来院。妻の強い希望により入院、精査。
服用薬はクラリスとアレグラ。
アレルギー、副作用なし。
カルテにて基本情報を確認し、さっそく患者さんに会いにいく事にした。
「椎名さん失礼しまーす。」
「はーい。あっ、君は昨日の!」
「あっ、昨日はスイマセンでした。」
昨日薬を借りてきた帰りにぶつかった、あの人がベットに寝ていた。
「いいんだよ。もう気にしなくて。君はここの病院の人だったんだ。」
「そうなんです。この病院で薬剤師してます。榮倉奈々です。よろしくお願いします!」
「よろしく。薬剤師さんも病室にくるんだね。」
「はい、入院された患者さんの薬について説明したり、使ってる薬で副作用が出ていないか、確認したり、ちゃんと、薬を飲んでるか確認してます。」
「へぇ〜、凄いねえ。」
「ところで、椎名さん、いつも飲んでる薬確認させていただきました。あの薬は副鼻腔炎に使っているのですか?」
「そうだよ!さすが薬剤師さんだね。薬見ただけでわかるんだ。」
「薬剤師ですから。それで、いちおう確認なんですけど、持ってきてもらったお薬はあの2種類で、他に健康食品とか、サプリメントとか飲んでないですか?」
「え?あぁ、うん・・・。普段はあの薬だけ。」
「普段はあの薬だけと・・・。」
「はい。」
「確認したい事は以上で、点滴の説明書き持ってきたので、よかったら参考にして下さい。今、使ってる点滴は水分補給の薬で、もう症状もよくなってきているので、今日で終わりの予定です。」
と、いって私は薬情をテーブルの上に置いた。
「めまいや頭痛は、ないですか?」
「もうないね。実際、入院も妻が無理やりさせたようなものだから。今すぐにでも、退院したいくらいだよ。仕事たくさん残してて。あっ、君薬剤師だから、このサイト知ってる?最近異動になって薬剤師さん向けの部署になったんだけど。」
と、言ってスマホを私に見せてきた。
「あっ、このサイト私知ってます。友達がここで働いてるんですけど、ユイカ、本仮屋ユイカ。」
「本仮屋君と友達なの?彼女よく頑張ってくれてるよ。異動したばかりだから、分からない事多いんだけど、本仮屋君にはいろいろ教えてもらってるよ。それでさ…。」
そのあとは、ユイカが頑張っている事から、薬剤師がサイトに何を求めているか、薬剤師の現状など、30分以上も刻々とインタビューされてしまった。
インタビュー中にも、私はひとつだけ、気になることがあった。
持ってきた薬は2種類だったけど、本当にあれで全部だろうか。
ぶつかったあの時には、3種類あったような…。
症状も改善しているから、いいのかな。検査の結果も脳に異常ないみたいだし。
とりあえず、ユイカに報告しなきゃ。

昼休みユイカにメールをすると、仕事終わったらすぐにお見舞いにいくから、案内して欲しいとすぐに返事が来た。
その日の夕方、ユイカは抱えきれないほどのフルーツ盛り合わせを持ってお見舞いにきた。
あまりに多過ぎて入院中では食べきれなさそうなくらいだ。
「これは、ダメね。」
私は、グレープフルーツを抜いて言った。
「え?なんで?椎名さん大好きなのに!いつもジュース飲んでいるから、好きだと思って多めに入れてもらったのに。」
「ユイカ、これは、椎名さんがいつも飲んでるクラリスと相互作用を起こすからダメなの。」
「えー、そうなんだ。知らなかった。」
薬には食べ物と相互作用を起こす薬もある。
特にグレープフルーツは薬の効き目を強めてしまうものが多い。
薬剤師はそういった食べ物との相互作用も気をつけなければいけないのだ。
「椎名さん、失礼します。」
病室入ると、さっきはいなかった奥さんも来ていた。
「どうも、主人がお世話になっています」
「こちらこそ、課長にはいつもお世話になっています。本仮屋です。課長が急に入院したって言うからみんな心配してます。」
「あはは、ごめんごめん。もう何ともないよ。先生も、明日か明後日には退院できるって。」
「もう、課長心配かけないで下さい」
ユイカはその場は笑顔で振る舞ったが、病室をでた瞬間表情は暗転し、残念そうに、「奥さん素敵なひとだったね」と、言って家に帰って行った。
私はユイカの事も心配だったけど、それよりも先に薬剤師としてやらなければいけないことがある。
椎名さんは隠している事がある。
それを明かにしなければ、また入院してしまうかもしれない。

私は、以下の事項を元に一つの仮説を立ててみた。
クラリス、グレープフルーツジュース、起立性低血圧、頭痛、お薬手帳に書いていないもうひとつの薬…。
GFJはCYP3A4で代謝される薬の血中濃度を上げる。クラリスも同様だ。
GFJを継続的に高用量で飲んでいたら、クラリスの血中濃度は上がっていたかもしれない。
しかし、問題はクラリスより、お薬手帳に書いていない「もう1つの薬」。それとも相互作用があるはずだ。
「もう1つの薬」は、きっと今回の入院の原因。
今回入院した原因は、起立性低血圧。
起立性低血圧を起こす可能性のある薬。副作用に頭痛。
薬で起立性低血圧を起こすとしたら、原因は血管拡張作用だ。
「もう1つの薬」はきっとCYP3A4で代謝され、血管拡張作用がある。
普通なら大丈夫なのだが、GFJとクラリスで相互作用が起きたため、血管拡張作用が過度に起こってしまい、起立性低血圧で入院するまでに至った。
そして、最後にあの薬ならお薬手帳に記入されていない理由がある。
お薬手帳をしっかり記載していた椎名さんが、あえて「もう1つの薬」を記入せず、存在を隠した。
「もう1つの薬」には隠したい理由がある。
そう、「もう1つの薬」は・・・。

私はその仮説を立証するため、奥さんが帰った頃に再度訪室した。
「椎名さん、もうひとつ薬飲んでいませんか?ぶつかったあの時、もうひとつ薬があったと思うのです。何の薬かは見えなかったからわからなかったのですけど…。もし、間違っていたら大変失礼なのですが、入院した日、別に何か薬を飲みませんでしたか?」
「薬ね、飲んだよ。」
「その薬って、ひょっとして『シアリス20mg』ではないですか?」
「・・・。そうだよ。君、薬も見てないのに、よくわかったね。凄いよ。」
「今回の症状、薬の相互作用から起きてるんです。」
「相互作用・・・。」
「椎名さんは、クラリスを飲んでいます。それと、グレープフルーツジュースがとても好きだとユイカから聞きました。この2つはとても相互作用が多くて、薬の効果を強めてしまうんです。」
「グレープフルーツジュースがダメだったのか?知らなかったなぁ。」
「そうなんです。それにシアリスはその2つの薬と相互作用を起こすので、気をつけなければいけないんです。EDの薬はもともと心臓病の薬として開発されてて、血管を広げるのですけど、それがEDにも効くので途中からED薬にシフトされたんです。シアリスの主な副作用は、頭痛、血圧低下。今回の椎名さんの症状と同じなんです。相互作用が起きたので、普通に飲むより血圧が下がって、めまいや立ちくらみが起きてしまったのだと思います。」
「そうだったのか。最近、仕事が変わってそのストレスなのか、なかなか上手くいかない事があったから、今回薬をもらって、飲んでみたんだ。最初は良かったんだけど、途中でふらふらしてね。今回、薬を飲むの始めてだったし、薬を飲んだ事は、ちょっと妻にはかっこ悪くて言えなかったよ。」
「そうだったんですね。でも、今回の事、奥様は大変心配されていたと思います。思い切って、すべて話しませんか?」
「そうだね。妻にも心配かけたからね。すべて話す事にするよ。」
「先生には私のほうから報告しておきますね。」
「榮倉さん、ありがとう。」
医師にはいきさつをすべて説明し、これで解決!ユイカ以外は。

仕事が終わったらすぐにユイカに電話をして、飲みに行く事にした。
「というわけだったのよ。」
「そうだったのね、課長もいろいろ大変だったのね。薬の相互作用かぁ。今度サイトの特集記事にとりあげようかな。」
「ぜひ、そうして。私も協力する。」
「奈々ありがとう。」
「じゃ、明日も仕事だし今日はもう帰ろうか」
と、言って店を出た時、板谷先輩とあのドラッグストアの薬剤師が二人でホテル街のほうから歩いてきた・・・。

次回「薬剤師って素直になる薬を作れるの?」
予告:板屋由夏と齋藤工は以前一緒にDI室で働いていた。しかし、ある薬を採用した後、齋藤工は辞職してしまう。
なぜ、齋藤工は辞職する事になったのか?

次回もお楽しみに♪

次回:【薬剤師ドラマ】第二話 板谷由夏編「薬剤師って薬の事をなんでも知ってるの?」